陸羽の「茶経」を読む、第10回目です。
今回は、茶器の風炉(ふろ/ふうろ)についての続きです。
該当の箇所の後半を引用いたします。
「三窓の上に、古体の文字で六字を横書きにし、一窓の上に、『伊公』の二字を書き、一窓の上に、『羹陸』の二字を書き、一窓の上に、『氏茶』の二字が書いてある。
これは『羹(あつもの)では伊公、茶では陸氏』という意味である。
炉の中に中高い小山を置き、三個の格を設け、その一格に翟(きじ)の図がある。
翟は火の禽(とり)である。离という一卦を画する。
その一格に彪(虎)の図がある。
彪は風の獣である。巽という一卦を画する。
その一格に魚の図がある。
魚は水の虫(動物)である。坎という一卦を画する。
巽は風をつかさどり、离は火をつかさどり、坎は水をつかさどる。
風はよく火をおこし、火はよく水をあたためる。
故にその三卦を備える。
風炉の飾り文様には、連ねた葩(花)、垂れた蔦、曲水、四角な文様の類がある。
その炉は或いは鉄を鍛えてつくり、或いは泥をめぐらせてつくる。
その灰承は三足の鉄盤でつくり、炉を載せる。」
(引用元:布目潮渢「茶経詳解」淡交社 79-80ページ)
風炉の横に三つの窓があり、文字が書かれています。
風炉を図示した場合、そこに左から二文字ずつを並べると「茶氏」「陸羹」「公伊」となり、そして、これを右から意味わけすると「伊公羹」「陸氏茶」となります。
「羹」は、”羹(あつもの)に懲りて膾を吹く”のことわざにある「羹」です。
中国の古代から伝わる肉入りのスープのことで、殷の時代の湯王に仕えた伊尹(いいん)が、その羹料理の名人として有名でした。
陸羽はその羹の名人と名を連ねるようにして、「羹なら伊公、お茶なら陸氏」と自ら褒め称えます。
(参照:同上 83ページ)
次に続く「中高い小山」は、原文は「しちりん」とも解釈されうる言葉で、イメージすると、鼎を逆さにしたようなものです。
三本の「格(わく)」があり、風炉をはめこむような形にして、火元の置き台として使用したのではないかと思います。
(布目さんの本は語義の解説は豊富にあるのですが、使用法が簡明に書いてなく、これはわたしの推察になります。)
そして、その三本の格にはそれぞれ図があり、その三つの図が、やはり五行の思想に裏打ちされた意味を担います。
魚(水の動物): 「坎」=「水」
雉(火の鳥): 「离」=「火」
彪(風の獣): 「巽」=「風」
(参照:同上 84-85 ページ)
このように、陸羽の茶道の中心となる茶道具の風炉は、易経の五行思想に典拠しながら、万物の要素を体現するものとして意味づけが行われています。
それは、茶を飲むということが、自然と人とのつながり、その接点の一つとして、陸羽が考えていたことの現われでもあると思います。
それでは続きは次回で。
小林
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